Time  difference

 

                      

久々に通された不二の部屋は、最後にここを訪れた時と同じように整然としており、そしてどこか温かみを感じさせる雰囲気も変わってはいなくて、
リョーマはほっとするような思いで大きく息を吸い込み、そして吐き出した。

記憶よりも少し大きくなった見覚えのあるサボテンに、よぉ、などと声をかけつつ、ひとしきり部屋を見渡していると、これまた整然と片付けられた
テーブルの上に大切そうに置かれている腕時計が目に留まり、リョーマは軽く目を見開いた。

 “これ・・・って”

近寄って手に取って見てみて、やっぱり、と目を細める。
それは以前、彼の誕生日に自分がプレゼントした時計だった。

シンプルでどこか上品さを感じさせるスタイルのそれは、その当時の自分にはとても高価なものだったが、そのイメージからどうしても不二に贈りたく
て購入した品だった。これから遠く離れてしまう彼とせめてペアで何か持ちたいと思いつつ、自分の分まではとても手が回らず悔しい思いをしたのだが、
程なく不二に餞別に全く同じものを贈られ、本当に嬉しかったことを思い出す。

何やらくすぐったいような気持ちで今もはめている自分の時計を見たリョーマだったが・・・

・・・あれ・・・?

自分の時計と不二のそれを見比べた瞬間、違和感を覚え、眉を寄せたが、すぐにその理由がわかった。
自分の時計の指し示す時刻と不二の時計の指し示す時刻が大きく食い違っている。
一瞬、時間を合わせ忘れたか、とリョーマは小首を傾げたが、確かに機内で時間の調整はしたし、周りの状況から見ても自分の時計のほうが合っている。
 
一体どういうことなのだろう・・・と考えていると、背後のドアが開き、不二が部屋へと入ってきた。

「コーヒーでいいよね。」
 
「サンキュ。・・・ね、この時計って壊れてるの?」
 
「?え?・・・あ!」
いきなりのリョーマの問いに目を瞬いた不二だったが、彼が手にしている時計に気づくと小さく声を上げ、慌てて彼の元へと駆け寄ると、それをひったくる
ようにして取り上げた。

「・・・見た?」
 
「見た・・・って置いてあったからね。何、なんかまずかった??」

さっと後手にそれを隠し、上目遣いに自分を見上げる不二の仕草を可愛いな、と思いつつリョーマは問いかける。
 
 
「・・・もしかして壊れてるのをそのままにしておいたの気にしてるの??」

さっき見た不二の時計は本当にあらぬ時間を示していた。
調子が悪いか何かで放っておいた事が自分にばれるのが気まずいのだろうか・・・と思っていると、それが伝わったのか不二は軽く口を尖らせる。

 「誤解しないで。これって壊れてるんじゃないんだからね。」
 
「?じゃあ、何で??」

確かに不二の性格からすれば、自分から貰ったものをいい加減に扱うようなことはしないはずだ。となれば、時計がおかしな時間を指している理由が急に気に
かかり、リョーマは身を乗り出した。

一方、不二はと言えば、しまった、とでも言うように口元を手で押さえ目を泳がせている。

「・・・答えなきゃダメ??」
「・・・ダメ。」

ややあってばつが悪そうに自分を上目遣いに見つめ、そう訴えかけてくる不二の愛らしさにどきり、としながらも、好奇心には勝てずそう言い放てば、仕方ない
な、とでも言うように不二はため息をつき、ちらり、とリョーマを斜め見た。

「・・・この時計は、君のいる場所の時間に合わせてあるんだ。」
 
「?オレのいる場所??」
 
「・・・うん。こうしておけばこの時計を見るたび、大体君が何をしているかってわかるから・・・さ。」 
 「・・・あ・・・」

自分達が離れている時でもこの時計は、不二の元で自分が過ごしているのと同じ時間を指していたんだ。
自分が贈った時計をそんな風に使ってくれていたなんて・・・と、リョーマは驚きと嬉しさで胸がいっぱいになる。

「・・・この時計を見て、オレの事考えたりしてくれてたんだ?」
 「・・・・・」
 「オレに会えなくて、寂しかった?」
 「・・・馬鹿・・・」

照れているのかそっぽを向いて返事を返さない不二に、重ねてそう尋ねれば、不意に拗ねたような声を上げ、自分へと抱きついてきた恋人にリョーマは再び驚きの
目を見張る。

 「・・・オレもすごい寂しかった。」

こんなにも可愛い愛しいあんたからこんなに長い間離れていられたなんて信じられないくらい。
その身体をしっかりと抱きしめ、その柔らかな髪に頬を埋めれば、夢にまで見た不二の温もりと匂いが自分を包んで、リョーマは心から満たされる。

 「・・・会いたかったよ、本当に。」

ありったけの思いをこめてそう告げ、リョーマは不二の頬を両手で優しく包み込むと、不二の唇を自分のそれで優しく塞ぐ・・・

 「・・・ホントならこのままベッドになだれ込みたいところだけど・・・」

・・・長い長いキスの後、名残惜しそうに唇を離したリョーマが不二の髪を撫でながらそう切り出す。 

 「今から買い物に付き合ってくれない??」
 「?買い物??」

彼の口からこぼれた聞き慣れないフレーズに顔を上げれば、いつになく優しいリョーマの視線が不二を捉える。

 「今日はあんたの誕生日じゃない?プレゼント、買いに行こう。」
 「・・・プレゼントなんていらないよ。だって君がここにこうしているんだもの。」

突然の申し出に不二が戸惑っていると、嬉しい事言ってくれるね、とリョーマは笑って。

「でも、それじゃあ何のためにあんたの元へ戻ってきたのかわからないからね。」

そう言って軽く不二の額にキスをする。

 「さ、早く出かける準備して。」
 「あ、と、ちょっと待って。」

自分から腕を解き、ドアに足を向けるリョーマを呼び止め、不二は彼の右手を捕まえる。

 「・・・やっぱりしててくれたんだ。」

軽く袖をまくりあげ、そこにある腕時計を確認した不二は嬉しそうに笑って。

 「時間合わせたいんだけどいい? 一緒に出かけるならこれ、着けていきたいから。」 
 「・・・わかった・・・」

・・・この時計を贈った時から決めていた。今度のこの人の誕生日には・・・って。
自分の時計を見ながら自らの時計の時間を合わせる不二を心から愛しく思いつつ、リョーマは決心を新たにする。

「・・・ね、オレからのプレゼント、受け取ってくれる?」
 
「勿論だよ。嬉しい。」

そう言って微笑む不二の顔はとても綺麗で、確か自分が時計を贈ったときもこんな最高の笑顔を見せてくれたっけ、と思い出しながら、今度のプレゼントも気に
入ってくれる事を心から祈る。

 

Happy birthday, my sweet.
 
「・・・ありがと。」

 

この指には一体どんな指輪が似合うんだろうか?
 
そして、これからの時間を共に過ごしていきたいという思いをどんな言葉で告げたらいいだろう?
幸せそうに笑う愛しい恋人を前に、かねてより胸に秘めてきたその思いをどう告白しようか、と、らしくなく緊張しながらも、絶対にうんと言わせて見せる、
そう固く心に誓いつつ、リョーマは不二の手をとり、祈りをこめてその甲にそっと唇を落としたのだった。